量子力学の基礎概念


4.空間推進演算子と運動量演算子

 前節では、時間推進演算子を求めたが、同様にして空間推進の演算子を求めることができる。

ある波動関数をφ(x,y,z)とする。空間は3次元であるため、それぞれの座標についての推進演算子を考える必要がある。そこで、y方向の座標を+εだけずらすユニタリー演算子をUy(ε)とする。

 従って、

               Uy(ε)φ(x,y,z)=φ(x,y+ε,z)                           (4.1)

が成り立つ。

さて、前節の(3.15)より、 H=(-i)lim(ε→0)(U (ε)−1)/ε=(-i)lim(ε→0)(exp(iεH)−1)/ε が成り立っており、このハミルトニアンであるHが時間推進演算子の生成子であったが、同様にしてy方向の空間推進演算子の生成子Kyを求めることとする。

つまり、

                      Kyφ(x,y,z)=(-i)lim(ε→0)(Uy (ε)−1)φ(x,y,z)ε=(-i)lim(ε→0))(φ(x,y+ε,z)−φ(x,y,z))/ε

である。そして、lim(ε→0))(φ(x,y+ε,z)−φ(x,y,z))/εは、yについての偏微分であるから、

                      Kyφ(x,y,z)=(-i)φ(x,y,z)                                                     

となる。同様にして、

                      Kxφ(x,y,z)=(-i)φ(x,y,z)   

                                                Kzφ(x,y,z)=(-i)φ(x,y,z)z    

であり、ベクトルを用いると、

                      K=(-i)(∂/∂x,∂/∂y,∂/∂z)=(-i)              (4.2)

となる。これが、空間推進演算子の生成子であり、空間推進演算子は、

               U(ε)=exp(irK)    (r=(x,y,z))              (4.3)

である。

 さて、見てのとおり(4.2)にћを乗じれば、これはまさしく運動量演算子である。ここでは、原子単位系を用いているため、ћ=1であり、運動量演算子PKとすることができる。天下り的に、P⇒(-i)と変換してシュレディンガー方程式を立て解を求めるのが通常であるが、そのことにはこのような背景がある。

 ところで、この節では抽象的な状態ではなく、敢えてφ(x,y,z)という座標表示を用いて説明している。これは、運動量演算子を敢えて座標表示で求めることにより、通常シュレディンガー方程式を立てる際に利用するP⇒(-i)という変換に対比させ、求まった空間推進演算子の生成子が、運動量演算子と同等であることを示すためである。逆にいえば、運動量演算子が(4.2)のような形式となるのは、状態を座標表示として、つまり波動関数として表した場合に限定され、別の表示を用いれば演算子が違った形式になると考えられる。そこで、座標表示に対して、運動量表示というものを考えてみることとする。

 考察を単純にするため、1次元についてのみ考えることとする。運動量演算子をPとすれば、その固有状態|p>に対しては、

               P|p>=p|p>                                         (4.4)

が成り立つ。これに座標表示を与えれば、

                      P<x|p>=p<x|p>=P(x)<x|p>      (P(x)= -i∂/∂x )            (4.5)

となる。 Pが座標表示に作用する演算子であることを表すために、P= -i∂/∂x の場合には、P(x)=-i∂/∂xと表すことした。

さて、(4.5)の解は簡単に求めることができ、<x|p>∝exp(ixp)となることがわかる。(なお、このことは、運動量の固有状態の波動関数は、k=pの波数をもつ平面波であることを示しており、ド・プロイの描像と合致する。)また、(4.4)にp'の運動量表示を与えるなと、

               P<p'|p>=p<p'|p>                                         (4.6)

となり、第2節で座標表示で用いた(2.9) <x'|x>δ(x'−xと対比すれば、

                     <p'|p>=δ(p'−p)                                                                                   (4.7) 

であることがわかる。また、(2.7)と同様に、任意の状態Ψを同じように運動量表示の展開により、

                                            QUANTUM2S48.PNG - 6,669BYTES              (4.8)

と表すこともできる。さて、(2.7)と(4.8)は同じ任意の状態Ψを、ぞれぞれ座標表示と運動量表示で展開したものであるから、

                                           QUANTUM2S49.PNG - 6,657BYTES              (4.9)

とすることもできる。そして、この状態Ψx'で表示を与えると、

                                            QUANTUM2S410.PNG - 13,989BYTES  (4.10)

となる。(cを定数とし、<x|p>∝exp(ixp)を用いている。Ψpは状態Ψの運動量表示である。)

さて、c=()-1/2、<x|p>=()-1/2exp(ixp)とすると、(4.10)はフーリエー変換そのものであることがわかる。つまり、任意の状態について、運動量表示から座標表示の変換はフリーエー変換により行われるのである。そして、フーリエー変換の定義より、逆に座標表示から運動量表示に変換する場合は、その逆フーリエー変換によって行われる。

また、このことから運動量演算子の表示形式の変換についても、考えることができる。(4.10)にP(x')=-i∂/∂x'を作用させてみると、

                                            QUANTUM2S411.PNG - 13,045BYTES      (4.11)

となる。わかりやすくするため、逆変換で表すと、

                             QUANTUM2S412.PNG - 9,702BYTES    (4.12)

となる。つまり、座標表示の状態に作用する運動量演算子はP(x)=-i∂/∂xあるが、運動量表示の状態に作用する運動量演算子はP(p))=pとなることがわかる。このことは、位置の演算子Xについても同様なことがいえ、座標表示の状態に対しては、X(x)xである。これを(4.11)同様にーリエー変換を行うと、

                               QUANTUM2S413.PNG - 17,244BYTES(4.13)

となり、運動量表示の状態に作用する位置の演算子はX(p)i∂/∂pであることがわかる。

位置の演算子と運動量演算子の関係をまとめると、次のようになる。

 なお、上記のことは3次元でも本質的に変わらない。この場合、c=()-3/2X(p)i(∂/∂px,∂/∂py,∂/∂pz)、exp(ixp)⇒exp(irp)とすればよく、フーリエー変換は3次元について行えばよい。

       QUANTUM2S41IM.PNG - 11,284BYTES  

 

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