量子力学の基礎概念
3.1 ユニタリー演算子
ユニタリー演算子Uを定義する。
UU*=I (3.1)
(3.1)がユニタリー演算子の定義である。なお、I は恒常演算子である。従って、
U -1=U* (3.2)
とすることもできる。さて、この演算子をある完全規格化直交関数系|an>に作用させ、|bn>とすると、
|bn>=U|an> |bn>*=(U|an>)*
となるが、共役な関数の添字をmとしてこの内積を求めると、
(|bm>*,|bn>)=((U|am>)*,U|an>)=<am|U*U|an>=<am|an>=δm,n
であり同じく、規格化直交関数系になることがわかる。これが、完全性までも有しているかはこれでだけではわからないが、完全性を有するものと仮定すると、「完全規格化直交関数系にユニタリー演算子を作用させると、完全直交規格化関数系になる。」ということができる。
続いて、ある自己共役演算子Lに対して、
T=U LU -1=ULU* (3.3)
という演算を行い、この共役を取ってみると、
T*=(ULU*)*=U (UL)*=UL*U*=ULU* (最後の項は、Lが自己共役演算子であることを用いている)
となるため、T*=Tであることがわかる。つまり、自己共役演算子に(3.3)の演算を行うと自己共役演算子となることがわかる。そして、この演算は行列とのアナロジーからユニタリー変換と呼ぶことにすれば、「自己共役演算子のユニタリー変換は、自己共役演算子になる。」ということができる。
さて、「完全規格化直交関数系にユニタリー演算子を作用させると、完全直交規格化関数系になる。」というのは、内積が保存されることを意味する。従って、このことを逆に考えるとユニタリー演算子を作用させて得た完全直交関数系は、全く異なる関数系に変わるのではなく、大きさは同じであるが、位相が異なるだけの関数系に変わるのではないか、考えることもできる。つまり、
|bn>=U|an>=exp(iR)|an> (Rは実数) (3.4)
ということである。そして、Rが実数となることより、これを|an>の固有値と関連付けて、R=qanとおくと(qも実数)、
|bn>=exp(iqan)|an> (3.5)
となる。恐らく、勘の鋭い人ならここで定常状態のシュレディンガー方程式の時間項を思い浮かべるかも知れないが、恣意的になることを避けるため、敢えてそれを使わず、A|an>=A|an>を満たす自己共役演算子Aを用いて、あるユニタリー演算子を、
U (q)=exp(iqA) (3.6)
と表してみることにする。そして、テイラー展開を行うと、
U (q)=1+(iqA)+(iqA)2/2!+(iqA)3/3!+(iqA)4/4!+・・・+(iqA)m/m!+・・・・・
となる。Am|an>=(an)m|an>なので、これを|an>に作用させると、
U (q)|an>=(1+(iqan)+(iqan)2/2!+(iqan)3/3!+(iqan)4/4!+・・・+(iqan)m/m!+・・・・・)|an>
=exp(iqan)|an>
(3.7)
となる。続いて、(3.7)に左からAを作用させると、
AU
(q)|an>=(1+(iqan)+(iqan)2/2!+(iqan)3/3!+(iqan)4/4!+・・・+(iqan)m/m!+・・・・・)A|an>
=anexp(iqan)|an> (3.8)
であることがわかる。なお、U (q)A|an>を求めても(3.8)の右辺と同じになることが容易にわかり、AU (q)=U (q)Aである。
さて、ここで(3.7)をqで微分すると、
d(U (q)|an>)/dq=ianexp(iqan)|an>=iexp(iqan)A|an>
=iAU (q)|an>=iU (q)A|an> ((3.8)より) (3.9)
となる。
3.2 時間発展演算子
ここで、3.1の演算子等を次にように置き換える。
A⇒H |an
>⇒|En> an⇒En q⇒tすると、(3.7)(3.9)は次のように置き換わる。
U (t)|En>=exp(itEn)|En>
(3.10)
d(U (t)|En>)/dt=iEnexp(itEn)|En>=iexp(itEn)H|En>=iHU (t)|En>=iU (t)H|En> (3.11)
さて、(3.10)と(3.11)が、どこかで見た形となっていることに気付くであろう。(3.10)の右辺は、定常状態における波動関数と同形であり、表示を与えるとexp(itEn)<x|En>=exp(itEn)φn(x)で、まさにその通りであることがわかる。そうすると、<x|U (t)|En>=exp(itEn)<x|En>=Ψ(x,t)とし、(3.11)に適用すれば、
d(<x|U (t)|En>)/dt=dΨ(x,t)/dt=iH<x|U (t)|En>=iHΨ(x,t)
∴ −idΨ(x,t)/dt=HΨ(x,t)
となり、時間発展のシュレディンガー方程式となることがわかる。
このことから、シュレディンガー方程式による時間発展とは、
U (t)=exp(itH) (3.12)
のような、ユニタリー演算子が作用することで起こっていることがわかる。(3.12)の演算子を時間発展演算子という。
時間発展の大きな特徴は、変化が連続なことである。この時間発展演算子の作用には、次のような性質があり、連続な変化を起こすことと親和性がある。
まず、
U (t+s)=U (t)U (s)=U (s)U (t) (3.13)
このことから、無限小正数εについて
U (t+ε)=U (t)U (ε)=U (t)exp(iεH)=U (t)(1+(iεH)+(iεH)2/2!+(iεH)3/3!+(iεH)4/4!+・・・・)
よって、 (
ゆえに lim(ε→0)(U (t+ε)−U (t))/ε=U (t)iH
このことから、
U (t)H=(-i)lim(ε→0)(U (t+ε)−U (t))/ε=(-i)lim(ε→0)exp(itH)(exp(iεH)−1)/ε (3.14)
特に、t=0では、
H=(-i)lim(ε→0)(U (ε)−1)/ε=(-i)lim(ε→0)(exp(iεH)−1)/ε (3.15)
となる。
この時間推進演算子を、ユニタリー変換に用いることで、「シュレディンガー描像」(波動力学)と「ハイゼンベルク描像」(行列力学)間の変換を行うことができるが、この点についてはいずれ後述する。
アマチュアリズムの量子力学