量子力学的なピンボールゲーム(運動量保存ポテンシャル)


 前節では、自由粒子の伝播関数を扱ったが、ここでは簡単な外部ポテンシャルがある場合の1粒子伝播関数を考察する。外部ポテンシャルとして、運動量が保存されるポテンシャルを利用するが、これはピンボールゲームを量子的に取り扱うことに相当する。
 2つのポテンシャルVMとVLから影響を受けて系の中を運動する粒子を扱うが、まずポテンシャルVMとVLが無い場合のハミルトニアン、波動関数及びエネルギーが次のように与えられているものとする。

                H0= −∇2/2m   φk(r)=exp(i k・r)/Ω   εk = k2/2m
                    Ωは、規格化定数であり、HBAR.PNG - 207BYTES=1とした。また、スピンは省略した。                (1.28)

 

そして、運動量を保存するポテンシャルを、
    
                      V(p)=VM+VL=Mp2+Lp4=−M∇2+L∇4                             (1.29)

とし、M、Lは実数の定数で、M>>Lであるとする。古典的なピンボールゲームに対比すれば、ポテンシャルがピンとなる。

 

  時間t1に粒子が状態φk1(r)=exp(i k1・r)/(Ω)1/2で系にあり、ポテンシャルVM=Mp2とVL=Lp4により、散乱を受ける。そして、(1.1.7)の定義よりiG(k2,k1 ,t2−t1)t2>t1は、その後粒子が時間t2に状態φk2(r)=exp(ik2・r)/(Ω)1/2にある確率振幅に等しい。そして、古典的なピンボールゲームからのアナロージーによれば、この確率振幅は、状態φk1(r)から状態φk2(r)へと系の中を運動するあらゆる経路の確率振幅の和に等しい。

 

例えば、最も簡単な経路は粒子がポテンシャルの散乱を全く受けない経路である。この確率振幅は(1.21)の自由粒子伝播関数
δk2,k1G0+(k2 ,t2−t1)と等しい。さらに、時刻t1にφk1(r)にあり自由運動し、時刻tMにポテンシャルVMにより散乱され、
状態φk2(r)になり時刻t2まで自由運動する等がある。
 

なお、ポテンシャルはいつでも散乱をしており、ピンボールゲームのように散乱する回数というのは考えられないように思えるが、これは摂動展開の考えたそのものである。初歩的な量子力学の教科書には、摂動展開の物理的意味までは説明されないことが多いが、摂動展開における次数は粒子がポテンシャルにより散乱される回数に対応している。摂動展開の近似計算では、通常1次とか2次までというようにある次数までで計算を打ち切るが、0次+1次+2次・・・・とすべての次数を足し上げるとこれは近似計算ではなく正確な計算となる。従って、ポテンシャルによる散乱は、散乱が0回から無限回までが同時に起こるとして計算したものともいえる。
 

   では、ポテンシャルVM により散乱1回散乱される場合の確率振幅を計算してみるが、これは時間依存の摂動によって得られる。つまり、csを時間t0で系が状態φsにある確率振幅としたとき、摂動Vの影響の下で時間tに状態φPに系がある確率振幅の時間微分は、

QUANTMUFIELD-1-5.S1.30IM.PNG - 3,252BYTES

となる。なお、Vps=<p|V|s>であり、φsとφpでとったポテンシャルの行列要素である。
 

考察しているのは、時間t0= tMで系は定義によりφk1(r)であり、cs=δs,k1となる。また、V=VMである。
よって、時間tMでφk1(r)からφp=φk2(r)に系が遷移する確率振幅の時間微分は、

QUANTMUFIELD-1-5.S1.31IM.PNG - 5,307BYTES

となる。δk2,k1はこの過程での運動量保存を示し、散乱の前後で運動量は変化しない。よって、確率振幅は

QUANTMUFIELD-1-5.S1.32IM.PNG - 3,631BYTES

であるが、θ関数により、−∞<tM<∞として差し支えない。
 同様にして、VLのポテンシャルを行列要素で表現すると、

                         −iVLk2 k1=−iLk14δk2,k1                            (1.33)

となり、同じく運動量は保存される。このようにして、2回、3回、4回・・・・とVLやVMに散乱される過程を足し合わせていくと、(1.34)のようにG+(k,t2−t1)が求まる。なお、運動量が保存されることから、k=k1=k2である。また、両辺の虚数はiは両辺ともi×(・・・)となるため落とすことができる。

QUANTMUFIELD-1-5.S1.34IM.PNG - 18,290BYTES

  古典的なピンボールゲーム場合と同様に、(1.34)両辺のフーリエ―変換を取ることにより、積分を無くすことが可能であり、(1.14)のように、

   G+(k,ω)=G0+(k,ω)+[G0+(k,ω)]2VMkk+[G0+(k,ω)]2VLkk+[G0+(k,ω)]3VMkk2
               +2[G0+(k,ω)]3VLkkVMkk+[G0+(k,ω)]3VLkk2+[G0+(k,ω)]4VMkk3+・・・・・ (1.35)

 

となり、これを計算することができる。すなわち、

 

              G+(k,ω)=G0+(k,ω){1+[G0+(k,ω)](VMkk+VLkk)+[G0+(k,ω)]2(VMkk+VLkk)2
               +([G0+(k,ω)]3(VMkk+VLkk)3+[G0+(k,ω)]4(VMkk+VLkk)4+・・・・・}
         =G0+(k,ω)/{1−[G0+(k,ω)](VMkk+VLkk)}
         =1/{[G0+(k,ω)]−1−(VMkk+VLkk)}
         =1/{ω―εk+iη−(VMkk+VLkk)} ・・・・(1.26)より
         =1/{ω―k2/2m+iη−Mk2−Lk4}・・・・(1.28)及び(1.29)より          (1.36)

 となる。

ここで、G+(k,ω)の極を求めると、 
            

                  ω=k2/2m+Mk2+Lk4                              (1.37)

である。これは、(1.27)よりポテンシャルVMとVLがある場合の粒子のエネルギーである。この結果は、通常の方法で固有値を求めた場合、つまり

                 Hφk1(r)=(∇2/2m−M∇2+L∇4)φk1(r)
                   =(k2/2m+Mk2+Lk4)φk1(r)

と同じ結論となることがわかる。

 

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